・野沢菜のカブ
11月も半ばになると、秋の田打ちも終わり、山の紅葉も少しずつ枯れ始める。魚沼地方は、この時期から冬に向かってまっしぐらに季節が進んでいく。村のあちこちの水場で、女たちが冬に備えて漬け込む菜を洗い出すのもこの季節だ。
上出浦(かみいずな)集落の南雲幸子さんは、毎年この季節、50キロほどの野沢菜を漬ける。自分の家の畑で栽培している野沢菜を採り入れ、自宅脇の水場で洗い、家の裏の雪がこいの中で漬け物にする。家には、裏山から水道が引かれていて、新鮮な清水が途切れる事は無い。菜を洗うのに水に不自由はしない。
野沢菜漬けは、新鮮な菜を良く洗い、塩をこすりつけた桶に菜を横たえ
その上にさらに塩を振り重しをのせれば、一応仕舞いである。浅漬けで1週間ほど。美味しくなるのは、だいたい2〜3ヶ月くらい経ってから。まさに時間が美味しくしてくれる食べ物だ。
作り方が単純な分、それぞれの家で工夫もしやすい。例えば、南雲さんは塩のほかに唐辛子と氷砂糖を加える。
「私が嫁に来た頃は、10キロの束を17個も漬けた物ものですが、最近はあまり食べなくなって、少ししか漬けないんです。昔みたいにいっぱい漬けるなら、本当に塩だけ、という方が自然の甘みが出て美味しいんだけど、」
とはいえ、やはりそこは50年にわたって作り続けて来た味である。親戚からは、毎日食べてるけど、やっぱりあなたの漬けたのが美味しい、とおねだりをされる。そうすると、漬け汁ごとビニールに入れ、送ってあげるのだと言う。
おいしい野沢菜付けを漬ける秘訣は、とにかくたくさん漬けること。それから、低温で日差しの無いところで時間をかけて作ること。冬の間食べ続けるので、2月頃から、いわゆるべっ甲色になる。春には古漬けになり、酸っぱさが増すが、それを洗って塩気を抜き、出汁で煮ると、これがまた美味しい。煮菜(にいな)と呼ばれる郷土料理である。
雪国にすむ者にとって、漬け物とは長い冬を生き抜くための知恵であった。数ヶ月の間新鮮な野菜は無く、ひたすらこの漬けものを食べ続けなければならなかった。そのため、飽きないように、いつまでも食べ続けられるように、様々な工夫をした。
最近でも、蕪(かぶ)、大根、糸瓜、など、様々な野菜に身欠きニシンを一緒にして麹で漬ける、通称「やたら漬け」。大根を細かく刻んで豆などと一緒に漬け込む「ハリハリ漬け」など、様々な工夫を凝らしたものがある。いまはもう、漬け物を冬の保存食と意識して食べる人も少なくなっている。スーパーマーケットは、いつの季節でも多種多様な野菜にあふれている。
しかし、やっぱり、野沢菜漬け、は、冬の食卓になくてはならない。
文・写真 中島太一
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