そば屋は、日本中、特に東日本一帯では、どこにでもある。日本人に一番親しまれている麺、の一つだ。だからだろう、その地方地方によって、名物の蕎麦がある。
八海山の麓、岡集落の外れにあるそば屋岡寮の調理人、宮内浩さんは、高校卒業後、東京の和食料理の修業に出た。だから、もとからの蕎麦打ち職人ではない。蕎麦を打ち始めたのは、41歳の時だ。
「最初、一番戸惑ったのは、蕎麦を切るときの包丁の力のいれ具合ですね。和食の包丁と蕎麦とでは、切るときの力のいれ具合が違うんです。最初は、結構戸惑いましたね」
宮内さんが蕎麦を打つのは、店の奥まったところにある半地下の一室。外からの光は全く遮断された10畳ほどの部屋だ。入っていくと、蕎麦の香りが、湿り気を帯びた空気の中でほのかに香る。もちろん、外から直接風が入ることはない。ここで、宮内さんは、少なくて4〜50人分。最盛期には、200人分の蕎麦を打つ。
蕎麦打ちは、地元で有名な蕎麦職人に習った。基本的なことは勉強になったが、最後は、自分自身で工夫をした。
そばは、轢いた蕎麦粉を水を加えながら練り上げ、十分に練ったものを棒で延ばす。その延ばし方には地元流の丸のばしと江戸打ちと呼ばれる、真四角に延ばす打ち方の二通りある。宮内流は、このちょうど真ん中だろう、と本人は言う。
宮内さんの打つ岡寮の蕎麦は、香りがとてもいい。
「おいしい蕎麦といっても、特にこうだ、という秘訣があるわけじゃないんです。良い蕎麦粉を選んで、丁寧に打って、出来るだけ早く食べてもらう。後は、好みのつけ汁と薬味、その相性で蕎麦の味って決まると思うんですね」
よく打ち立てがうまいというが、やはり、打ってすぐ、というわけではないらしい。打ち終わって、切って30分くらいおいてからゆでるのがいいらしい。
いま、岡寮で出しているのは、蕎麦粉10割の十割蕎麦、定番の二八蕎麦、そして、蕎麦の殻をそのまま引き込んだ、少し黒ずんだ田舎蕎麦の三種類。通常は、北海道の蕎麦粉を使うが、秋の新蕎麦の時期には、少量で限定品になるが、魚沼でとれた極上の蕎麦粉を使う。
「ここから車で一時間以上いったところですが、湯之谷村という会津との境でとれる蕎麦です。寒暖の差が大きいので、とても品質が良く、香りがいい。ただ、なにしろ貴重品なので、その時期しか使えない、というのが、とても残念ですね」
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